プロフィール

小崎 哲哉(おざき・てつや)
1955年、東京生まれ。
ウェブマガジン『REALTOKYO』及び『REALKYOTO』発行人兼編集長。
写真集『百年の愚行』などを企画編集し、アジア太平洋地域をカバーする現代アート雑誌『ART iT』を創刊した。
京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員、同大大学院講師。同志社大学講師。
あいちトリエンナーレ2013の舞台芸術統括プロデューサーも務める。

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「展示できる国」のために

2016年07月07日

国際美術評論家連盟日本支部有志が「表現の自由について」という声明を出した。冒頭で「連盟は、芸術表現、批評活動の自律的営為にたいする、この自律的規範を無視した外部の力による、強制的かつ恣意的な改変(要請を含む)をはじめとする理不尽な抑圧にたいして反対し、かつ抵抗する」と宣言する。短いが、簡にして要を得たメッセージだと思う。

この問題についての連盟の行動指針となる、したがって今後の政治的行動の根本原理となる一文である。政治的行動とは何かって? もちろん、「理不尽な抑圧」に対する具体的な「反対」「抵抗」のことだ。


昨今の情勢は信じがたいほどひどい。これまでに僕が書いたことだけに限っても、東京都現代美術館(MOT)で起こった会田誠と会田家に対する作品撤去要請、同じくMOTによるChim↑Pomへの作品改変要請国際交流基金によるChim↑Pomへのソフトだが露骨な圧力広島市現代美術館が事実上加担した中国による刘鼎(リュー・ディン)作品の検閲など、およそ民主主義国家ではあり得ないようなことが続いている。いずれも、安倍晋三政権下の出来事である。

個人的に腑に落ちないのは、会田家問題以外ほとんど、いや、まったくフォロー記事が出ないことだ。圧力をかけた当事者がノーコメントを貫くのは、とんでもないことではあるけれど、そもそもそういう奴ら(事なかれ主義と保身しか考えていない奴ら)なんだから仕方ないと思わなくもない。だが、マスメディアやアートジャーナリズムは何をやっているんだろう? 結果的に、敵に加担しているのと同様ではないのか。同じ穴のムジナなのか。だが、そんな愚痴を言っているだけでは意味がない。

ここで参考になるのは、Let’s DANCE署名推進委員会など、いわゆる「風営法」によるダンス規制へ反対した、そしていまも反対し続けているダンスラバーたちの動きである。風営法の規制対象から「ダンス」を削除するために、まずは署名運動から始めた。坂本龍一、大友良英ら音楽家にとどまらず、音楽評論家の大貫憲章、フジロックやサマーソニックの主催者、作詞家の湯川れいこ、小説家でラッパーのいとうせいこう、美術評論家の建畠晢、映画監督の諏訪敦彦らに働きかけて呼びかけ人になってもらった。法律を熟知する多くの弁護士にも関わってもらい、賛同人として、ここに書き切れないほどの人々に声をかけ、運動を進めた。

2012年5月に「目標10万筆」を掲げて署名集めを開始する。クラブ、ライブハウス、フェスの会場、レコード店、街角などで自筆署名を求め、一方、ウェブサイトをつくってWeb署名もできるようにした。年末までに目標数を達成。並行してロビー活動を行い、超党派の議員連盟結成を促した。2013年2月には、クラブ関係者や弁護士ら約30名が飛び込みで永田町の議員会館を訪問し、衆参議員約60名に法改正の必要性をアピール。同年5月、15万筆にまで伸びた署名を国会に提出し、衆院第一議員会館で記念集会を行う。議員会館はダンスフロアと化し、社民党の福島瑞穂党首もダンスに加わったという。

長くなるので途中の動きは割愛するが、2015年6月17日、改正風営法は参院本会議で可決・成立。地域規制など解決すべき問題はまだまだあるが、ダンスラバーたちは一応、戦いに勝利を収めた。詳しくは、神庭亮介著『ルポ風営法改正 踊れる国のつくりかた』を読んでほしい。いまだ道半ばとはいえ、地道な努力による見事な「反対」「抵抗」運動だと思う。


感心するのは、ダンスラバーたちのしたたかで粘り強い戦略・戦術である。朝日新聞の記者である上記の神庭氏をはじめ、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、ウェブなど、あらゆる媒体に情宣活動をかけた。DJ沖野修也がジェフ・ミルズら海外の著名DJに呼びかけて、安倍首相宛に書簡を送った。他方、事務局は海外諸国の文化交流機関などに働きかけ、それぞれの代表から関係官庁に意見書を送ってもらうなど「外圧」も巧みに利用。完勝とはいえないまでも、緒戦の勝利に結びつけた。

業態も背景事情も異なるから、ダンスラバーたちの戦いと同一視はできない。とはいえ「芸術表現、批評活動の自律的営為」に関して、アートラバーたちは同様の行動力を発揮できるだろうか。7月24日(日)に東京都美術館で、美術評論家連盟が主催するシンポジウム「美術と表現の自由」が開催される。プレスリリースにもチラシにも、ろくでなし子、鷹野隆大、会田家の名前しかなく、Chim↑Pomや刘鼎への言及がないのが気になるが、当然、彼らのケースについても話し合われることだろう。

ともあれ、内輪の自己満足的な討議に終わるのではなく、具体的・実効的な政治活動に結びつけてほしい。安倍政権の強圧的な姿勢についてマスコミに調査させ、野党議員に追及させ、署名活動などで世論喚起を行い、海外のアートラバーに日本の惨状を知ってもらい、保身に汲々とする一部のアート関係者に意識改革を(あるいは退場を)迫る。それくらいできなければ、ダンスラバーたちに笑われる。我々は「踊れる国」ばかりではなく、「展示できる国」もつくらなければならない。