ふじのくに⇄せかい演劇祭2016


推薦:前田圭蔵

「いま、世界はどういうことになっちゃってるのか。日本はどうなっていて、アジアはどうなっているのか。確かにとても知りたい。……人間は焦る。で、分かりやすいものがすごく求められる。でも、多数の人々が分かりやすいことに飛びつくとロクなことはなかったようだ。だから『さっさと知りたい』という焦りを抑えないといけない。その代わり、地道に身体感覚と想像力を磨く。たぶんそれがいい」

演劇祭ガイドパンフレット



ふだんなかなか観ることのできない世界の演劇・ダンスに出会える貴重な機会を提供し続けてきた『ふじのくに⇄せかい演劇祭2016』が今年もSPAC(静岡県舞台芸術センター)企画で開催される。今年のラインアップも魅力的で、世界五大陸の振れ幅の広い作品がGW期間に一挙に静岡に集結する。

『イナバとナバホの白兎』フライヤー
「大黒天に白兎」 葛飾北斎筆
Photograph (C) 2015 Museum of Fine Arts, Boston
Image design by SAKAMOTO Yoichi(mots)



SPAC芸術総監督・宮城聰が自ら演出を手掛ける『イナバとナバホの白兎』は、亡きクロード・レヴィ=ストロース晩年の論考集『月の裏側―日本文化への視角』に書かれていた仮説に想を得た作品で、フランス国立ケ・ブランリー美術館開館10周年記念委嘱の世界初演プレ公演として上演される。いままでにも数々の古典や神話を題材に、意欲的かつ斬新な演劇創作を行ってきた宮城待望の新作だ。

また、2012年に『キリング・フィールドを越えて』の上演でも話題を呼んだシンガポールの演出家オン・ケンセンが、アジア各国の俳優そして歌舞伎役者の中村壱太郎や狂言の茂山童司、宝塚出身の久世星佳、江本純子、たきいみきら多彩なキャストを配して、野田秀樹原作の『三代目、りちゃあど』に挑む。本作品は静岡での初演後、夏にはシンガポール芸術祭、そして11月から12月にかけては東京芸術劇場を含む国内巡回公演も予定されている。

『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』
(C) Luke YOUNGE



さらに、京都国立近代美術館や東京国立近代美術館などでも大規模個展が開催され、「動くドローイング」と呼ばれる素描をコマ撮りした手描きアニメーションで日本でもよく知られる美術家ウィリアム・ケントリッジが、舞台『戦火の馬』でもその精巧な動きで多くの観客を驚かせた世界屈指の人形劇団ハンドスプリング・パペット・カンパニーと手を組んで制作した『ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ』や、レバノン出身の劇作家・演出家・俳優サウサン・ブーハーレドの一人芝居『アリス、ナイトメア』など、日本ではめったに観ることのできない、世界の演劇のいまを体感できる公演がほかにも目白押しだ。

『アリス、ナイトメア』(C) Mohamed FATHALLAH
(C) Luke YOUNGE



冒頭に引用したのは、SPAC芸術総監督・宮城聰が今年のフェスティバルに寄せた言葉。性急な回答を求め出した世界に対し、世界を見つめ、自己を見つめ直すきっかけを演劇によってもたらそうとするこの企てに、ぜひ駆けつけてほしい。

 
 

『ふじのくに⇄せかい演劇祭2016』
2016年4月29日(金・祝)〜5月8日(日)
静岡県舞台芸術センター(Shizuoka Performing Arts Center : SPAC)
公式サイト:http://festival-shizuoka.jp

 
 

まえだ・けいぞう
1964年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒。在学中にポスター・ハリス・カンパニー設立に参加し、パルコ劇場、スタジオ200、夢の遊眠社などの宣伝協力に携わる。卒業後、世田谷美術館学芸課に学芸員として勤務し、その後(株)カンバセーションに入社、プロデューサーとして数々のダンス公演やコンサート制作を手掛ける。現在は東京芸術劇場のスタッフとして舞台芸術に関わる仕事に従事。NPO法人リアルシティーズ同人。

 

(2016年4月12日公開)


この記事はREALTOKYOからの転載です。