Interview: Laura Israel

インタビュー:ローラ・イスラエル(『Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代』監督)


 
聞き手 & 写真:福嶋真砂代

会ってみると飾り気のない、意外と「普通のひと」だったことが逆にうれしかった

ローラ・イスラエル監督



ニューヨークの伝説的芸術家ロバート・フランク(現在92歳)の波乱万丈の人生と、いまもなお異彩を放つ写真や映像作品の数々を、豪華な楽曲とエッジの効いた編集で魅せるドキュメンタリーの監督に話を聞いた。監督は多くのミュージシャンのPVを手がける敏腕編集者としてフランクに出会い、以来長年にわたり多くの作品を共に作ってきた強力な右腕であり理解者。「気難しい芸術家」というレッテルとは裏腹に、そんな彼女だからこそ撮れた「意外と普通のひと」というフランクの素顔、さらに互いに助け合うニューヨークのアーティストコミュニティの関係の興味深い話も含め、盛り沢山語ってくれた。

 
◆「過去は振り返らない(Never go back)!」とロバートが答えた

―― ニュー・オーダー の『Run』(1989年)のPVで初めてロバート・フランクと一緒に仕事されたと伺いました。

ニュー・オーダーが所属するファクトリー・レコードに知り合いがいて、ニュー・オーダーのPVの編集を数多く手がけていました。編集の私といろんなアーティストを組ませてPVを作るという企画があって、次は写真家のロバート・フランクだよと言われ、すごくうれしかったのを憶えています。映像の前に写真を勉強していて当然ロバート・フランクのことは知っていたので、一緒に仕事ができるというので興奮しました。

―― ローラさんにとってはヒーローに出会ったような感じなのですか。

そうですね。ヒーローとの出会いでもあったし、でも会ってみるとロバートが飾り気のない、意外と「普通のひと」だったというのもうれしいことでした。あるとき、ある程度映像を選んで編集していて、「いまこの映像を選んだけど、この先また戻って見直したりしますか」と聞くと、ロバートは「過去は振り返らない(Never go back)!」と答えてくれ、そういうところは私とすごく感性が合うと思いました。

―― それからはずっと一緒に仕事を?

その後いい関係が続いて、ロバートは2年に1回くらいは映画やビデオインスタレーションなどを作っているので、その仕事を一緒にしています。まず彼は「僕のことを知ってほしい」と写真集、映像、映画など、自分の作品をすべて渡してくれました。ニュー・オーダーのときはいわゆる「仕事!」っていう感じでしたが、ロバートは、まず人間関係を作り上げた上で仕事をしていくということを求める人だと思います。友達としてパーソナルなつきあいをして、奥さんとも仲良くなったり、そうやってロバートのグループの中の一員になっていった感じでした。もちろん私のことも知ろうとしてくれました。NYとノバスコシアにあるロバートの家のどちらにも行きました。NYでは近所に住んでいるので道でばったり会うこともあるし、NYで作った映像を私が編集して、それをノバスコシアに持っていってまた作るとか、常に進化していくような作品の作り方をしました。実は私はポストカードコレクターなので、彼の家にポストカードをドロップして「Say hello」してから仕事に行くとか、彼もポストカードが好きだと知っていろいろ集めて、すぐペンパルになりました。

―― なるほど、ふたりは”ポストカードペンパル”なんですね。

ちょうど2週間前にも、時間がなかったので友人に頼んでポストカードドロップしてもらいました。ロバートはだいたい年の半分ずつNYとノバスコシアに住んでいます。以前はノバスコシアは冬も美しいのでずっと住んでいたようですが、映画にも映っているように、冬は海も凍ってしまうし、水道も電気も止まりがちなので、最近は夏に行くようにしているようです。

―― 電話線を15人くらいで共有していて、「電話を聞かれてる」といたずらっぽく言ってるシーンがありますが、あれも面白いですね。

私もそこは好きなシーンです。面白いですよね、小さな村でほかにすることないから他人の電話をずっとこっそり聞いていたりする、みたいな(笑)。

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC



 
◆「ロバート・フランク・ルーム」にこもりきりの1年間

―― タイトル通り「瞬きできない」くらい、映画にはたくさんの情報がぎっしり詰まっていますが、編集のご苦労は?

編集のアレックス・ビンガム、それからプロデューサーのメリンダ・ショプシンにも助けてもらいました。「ロバート・フランク・ルーム」と名付けた編集室に1年間こもりきりでしたが、そこでは彼の本や作品にぎっしり囲まれながら、常に編集している感じでした。ロバートがアリゾナに休暇に行くと、そこで撮った写真をごっそり持って帰ってきたり、写真集も新たに出たり、編集中も常に新しい素材が増えていきました。何か困ったときは、常に彼の作品に立ち戻るという作業を繰り返しました。彼のワークが彼のライフであると言えますからね。

―― まさに映画は「ロバート・フランク・エンサイクロペディア」という感じで、ロバートのことも、また真のアメリカを知る上でも、ここに戻ると何かが見つかるという起点になるような作品だと思いました。アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアック、グレゴリー・コーソら、ビート・ジェネレーションのスター勢ぞろいの短編映画『プル・マイ・デイジー』(1959年)のことをこの映画で知って、観てみたらその新しさにゾクゾクしました。

それはうれしいですね。作品あってのロバート・フランクなので、この映画を観て彼の作品を再発見したり、見直したり、そういうモチベーションになってくれるといいなと思って作りました。また、写真集などでは見せる機会のない彼の側面や素顔を見ていただけるといいなと願っています。

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC



 
◆写真集『アメリカンズ』 の革新性、芸術性の高さ

―― ところで、写真集『アメリカンズ』は発表した当初は評価が低かったけれど、10年後にはとてつもない高評価を受けるという流れがあって、現在に至ってさらに再評価されています。ローラさんはどう感じていらっしゃいますか。

今回ドキュメンタリーを撮るに当たりロバートの作品をいろいろ観直して感じるのは、とてもタイムレスな、つまり時間にとらわれていないということです。でもそれ以上に感じるのは、被写体をアーティスティックに捉えていること。例えば構図的にも芸術的レベルが高いし、その写真があえて切り取ってないもの、あえて撮っていないものが重要であったり、当時もそうでしたが、いまも「革新性」があることが意義深い。文字を使わずに写真だけで社会に対するメッセージを伝え、それが決して説教じみてはいない。面白いと思ったのは、ひとつの作品に対して実は2、3枚しか撮ってない、意外と何枚も撮らない撮り方なんです。その中からこの1枚を選ぶ。そんな方法の一部を映画の中で(ベタ焼きから選ぶシーンで)見せることができてよかったと思います。『アメリカンズ』は、ロバートがすごく努力して大変な思いをして世の中に出した作品で、それなのに評価が低かったのは当時はショックがあったとは思いますけどね。
(編集部注:『アメリカンズ』は1955年から9ヶ月かけて、10,000マイル、30州を旅し、767本のフィルムを費やして、27,000枚の写真を撮ったー『Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代』より)

―― 『アメリカンズ』では27,000枚から83枚を選んだということだけでもすごいけど、その1枚1枚すべてがものすごくフォーカスされているということですね。

そうなんです。編集者、つまり私のことだけど(笑)、私から見ても、そのことを知るだけで感動しますね。確かに人間を映し出したものではあるのですが、アートとしても美しい写真ですね。

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC



 
彼は映画の中で「写真家はハンターだ」と言ってましたが、そういう捉え方は私も好きです。「いい獲物を獲りに行く」という気概で、朝早くから現場を探して写真を撮り(獲り)に行き、夜帰ってきて、どこか暗室となるところを探して現像するという、一連のことにすごくエネルギーをかけて作ったわけです。その後、ロバートがフィルム(映像)に移行していったのは、もっと人とのコミュニケーションを求めたという理由もあるのかなと私は思っています。

―― ロバートの仕事仲間の”現像マン”のシド・キャプランをインタビューしてましたね。

ええ、最も長い時間をかけたインタビューのひとつです。非常に面白い人で、写真とのつきあいが長く、マグナム・フォト(Magnum Photos)やウィージー(Weegee)と一緒に仕事をしていました。アレン・ギンズバーグも近所に住んでいたので、シドがギンズバーグの現像を手伝ったりしていたんです。NYに、エルトレイン(El Train)という地下鉄が一部地上に出る区間があったんですが、いまNYで、当時の風景をシドが撮った写真展(*1)をやってます。ある意味、彼はニューヨークの歴史家ですよね。ひとつ面白いエピソードがあるんですが、ジャック・ケルアックの『地下街の人びと(The Subterraneans)』という作品の舞台はサンフランシスコになっているんですが、実はNYのシドが住んでいた界隈がモデルになっているんです。ロバートやアレン・ギンズバーグにとっては「すごく懐かしい」という感覚のある作品なんですよね。実はこれは今回の映画には収録しきれなかった部分なんです。

―― そうすると、未公開の素材もたくさんあるのですか。

そうですね。多くの素材から泣く泣く決断をして選んだ結果、この映画が出来ました。時系列に編集してもよかったのですが、ロバートはわりに「テーマ別」に物事をやっていくタイプなので、この映画も「テーマ別」にしようと思ったんです。ときどき寄り道するんですが、脱線しすぎると面白い話が止まらなくなってしまうので、本線にどう戻ってくるかを気をつけながら編集しました。ロバートの人生も面白い脱線が多いんですが、作品としては戻さないとね。彼の人生はモノがフルにあるので、作品としてそこをどうコントロールするかにも腐心しました。

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC



 
―― 編集者であったローラさんにとって、今回は監督として「ロバートを撮る」という、ある意味立場の逆転みたいなことだったと思うのですが、映画からはロバートもそれを楽しんでいるように感じられました。この映画を作るに際して何か意見をもらったのでしょうか。それともずっと黙っていて、出来上がりを観て感想を言ってくれたのでしょうか。

最初にロバートは私に小さな「笛」をくれたんですよ(笑)。何かあったらこれで呼んでね、みたいなサインだと思うんですが。ヘンゼルとグレーテルみたいに、パンくず、つまりヒントを落としていってくれたので、それを拾っていくとたどり着ける、そういう感じの手助けをしてくれました。ドキュメンタリーなので、どうしても撮っているときはグチャグチャというか、あちこちに散らばってる感じで、それをどうまとめるかが難しいところではあるのですが、そんな中でちょっと行き詰ったときに訪ねると、すかさず「映画はどう?」なんて声をかけてくれて。私の顔には「タイヘン」の文字が浮かんでいたと思うんですけど、そんなときに「信頼している(I trust you)」という言葉をかけてくれたんです。それで安心したし、自由になれたのと同時に責任重大だと思いましたけど、次に進む力になりました。ロバートは「最終的責任は取らないけど、何かあったら手助けするよ」というスタンスでいてくれました。撮影始めのころのインタビューの後で2分くらいのトレイラーを作ったのですが、ロバートはそれを見て安心してくれました。実はそのトレイラーは映画のオープニングに使っています。

さらに付け加えると、「Don’t Blink」(目をつぶるな)というタイトルは、あるとき、ジャーナリストに「いま写真を勉強している若い人に何か言葉はありますか」と聞かれたロバートが「Keep your eyes open! Don’t blink!」と言って、ああこれぴったり、いただこうと思って付けたんです。

 
◆ロバート・フランクとアンソロジー・フィルム・アーカイヴズ

―― 最後の質問ですが、ジョナス・メカスとロバートはどういう関係でしたか。ロバートは「アンソロジー・フィルム・アーカイヴズ」に所属してた時期があるのでしょうか。

「アンソロジー・フィルム・アーカイヴズ(以下、アンソロジー)」は、簡単に言うと、この映画のスポンサーのひとつです。ブリーカー・ストリートのロバートのアトリエの近くに「アンソロジー」のオフィスがあったので昔からつながりがあります。同じNYに住むアーティスト同士、何かあったらお互いサポートするよという関係です。最近も、ハリー・スミスというアーティストのビデオテープがロバートのアパートからたくさん発見されて、それをアンソロジーが使えるようにダビングしてあげたりしたことがありました。ロバートの映画『Sin of Jesus』にメカスが役者として出演してますね。この映画に使ったアーカイブ映像についても「アンソロジー」のアンドリュー・ランパートが協力してくれましたし、実はランパートはこの映画のプロデューサーのメリンダ・ショップシンのご主人でもあるというつながりもあるんです。私たちは、こういう友人のコミュニティでお互いに助け合っていると言えます。

 
◆おまけ◆

―― ロバート・フランクがローリング・ストーンズを撮ったドキュメンタリー映画『Cocksucker Blues』は未公開なのですね。

ローラ:はい、未公開です。ローリング・ストーンズ側とロバート・フランク側との取り決めで、年に3、4回までという制限つきで上映はしています。『Don’t Blink』関連のフィルムフォーラムでも上映しました。私も観たことがありますけど、クールでいい映画です。撮影した当時のロックカルチャーの中でドラッグとか違法なことも撮られているので、これをアメリカで上映するとローリング・ストーンズが法的にアメリカに入国できなくなるんじゃないかという危惧もあって、公には上映されていないわけです。そういう背景があるんですが、最近は少しずつ緩やかになってきてますけどね。

ロバート・フランクがカバーデザインを手がけたローリング・ストーンズ
『メイン・ストリートのならず者』のジャケットを見るイスラエル監督 (C)marsha2017



 
 

Laura Israel
米国ニュージャージー州で生まれ、10代のころからNYのロウアー・イースト地区へ写真を撮りに行っていた。ニューヨーク大学在学中にコマーシャルやミュージックビデオの編集で数々の賞を受賞し、大学卒業と同時に自らの会社 Assemblage を設立。制作した主なミュージシャンは、ジョン・ルーリー、ルー・リード、パティ・スミス、キース・リチャーズ、ソニック・ユース、ニュー・オーダー、ジギー・マーリー、デヴィッド・バーン、アーティストではウィリアム・ウェグマン、ローリー・シモンズ、そしてロバート・フランク。2010年に初の長編ドキュメンタリー映画『Windfall』を監督し、トロント国際映画祭でプレミア上映、Docs NYCでトップ・プライズを受賞。毎年「フィルムメーカー」誌が選ぶ「インディペンデント映画の注目すべき25人」の1人に選ばれている。

 
ふくしま・まさよ
航空会社勤務の後、『ほぼ日刊イトイ新聞』の『ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。』、『お隣が宇宙、同僚がロケット。』コラム執筆。桑沢デザイン塾「映画のミクロ、マクロ、ミライ」コーディネーター。産業技術総合研究所IT科学者インタビューシリーズ『よこがお』執筆。REALTOKYO CINEMAブログ主宰。

 
 

〈インフォメーション〉
『Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代』robertfrank-movie.jp
監督:ローラ・イスラエル

撮影:リサ・リンズラー、エド・ラックマン

編集:アレックス・ビンガム

音楽:ハル・ウィルナー(プロデューサー)

参加アーティスト:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ローリング・ストーンズ、トム・ウェイツ、パティ・スミス、ヨ・ラ・テンゴ、ミィコンズ、ニュー・オーダー、チャールズ・ミンガス、ボブ・ディラン、ザ・キルズ、ナタリー・マクマスター、ジョセフ・アーサー、ジョニー・サンダース、ザ・ホワイト・ストライプス

2015年/アメリカ・フランス/82分
配給テレビマンユニオン/配給協力・宣伝:プレイタイム

(劇場情報)
4月29日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか、全国ロードショー
テアトル梅田 7/1〜
京都シネマ 順次
元町映画館 順次

 
 

この記事は『REALTOKYO CINEMA』より転載したものです。


(2017年6月18日公開)