インタビューシリーズ『京都の仕掛人』: イザベル・オリヴィエ(アンスティチュ・フランセ関西-京都 文化プログラム主任)



 

聞き手:小崎哲哉
写真:かなもりゆうこ

新シリーズ「京都の仕掛人」は、京都で文化的な活動をしている裏方さんたちへのインタビューです。第1回目は、日仏間の文化交流活動を積極的に進めるアンスティチュ・フランセ関西-京都のイザベル・オリヴィエさん。全国各地の日仏学院・日仏学館とフランス大使館文化部が昨年統合したアンスティチュ・フランセ日本について、そして10/5(土)に開催される『ニュイ・ブランシュ KYOTO 2013』についてお話をうかがいました。

 

Photo: Kanamori Yuko



●アンスティチュ・フランセ日本への統合とその活動

—— まず、イザベルさんのバックグラウンドを教えて下さい。

私のバックグラウンドはちょっと変わっていて、そもそもは著作権などを含む国際的な権利関係の仕事をしていました。東京では法律事務所で働いていて、ユネスコやEUの活動に関わったり、政治的な業務に携わったりしたこともあるのですが、外務省でのこのようなポストに就いたのは今回が初めてです。

—— 大学では、例えば国際政治学などを勉強されたんでしょうか。

まさに国際政治です。

—— それが今の文化的な仕事に変わったのはどういうきっかけですか。

まずは本当に個人的な理由なのですが、自分が生活している環境にはいつもアーティストが近くにいて、「創作」というものにとても興味があったんです。そして2つ目に、東京で、ポンピドゥー・センターの公式プログラムであるフェスティバル『オール・ピスト東京』を立ち上げたこと。『オール・ピスト東京』ではエグゼクティブディレクターの肩書きで、ポンピドゥー・センターの企画担当者と何度も話をし、フェスティバルを立ち上げるためのいろいろな活動を通して、文化にさらに興味を持つようになったんです。そのときに日本人アーティスト(特にひとり挙げるとしたら河合政之さん)との出会いがあり、それから「アーティストたちと活動したい」と思うようになって、この経験が決定的なものになりました。フェスティバルを立ち上げるには法律的な知識だけではなく、制作や、国際関係に関する知識や、文化的な考え方など、すべてのものが必要だということがわかり、大きな興味を持つようになったんです。

—— 関西日仏学館は、アンスティチュ・フランセ関西-京都という名前に変わり、それによって機構も変わりましたね。

日本における文化活動を統合して行えるように、2013年からアンスティチュ・フランセ日本という組織になりました。東京、京都、九州まですべてを含め、ひとつの組織として活動できるようにしたんです。

いままでのネットワークが、さらに強固になり、いろいろな部署からアーティストにも情報を供給することができるようになりました。

関西では、大阪日仏センター=アリアンス・フランセーズがアンスティチュ・フランセ関西に入り、大阪と一緒に動けるようになったので、関西での文化的活動をさらに展開できるのではないかと思っています。

—— その分、忙しくなりますよね(笑)。

その通りです(笑)。

—— アンスティチュ・フランセの目的は世界や日本におけるフランス文化の、具体的にはフランス語教育とフランス文化の普及促進だと思うのですが、イザベルさんは文化プログラム主任ということなので、後者に特化しているという理解でよいでしょうか。

そうですね。文化プログラム主任として、文化やアーティストに関することを担当しています。いまでは日本人アーティストとフランス人アーティストの交流にも目を向けています。

—— 僕自身、東京から京都に4年前に来て、2つの都市はすごく違うと思っていますが、イザベルさんも前は東京にいらして、違いを感じていると思います。基本的にフランスの方は、京都が好きな方が多いですよね。

京都に来てかなり驚いたのが、伝統的な文化だけではなく、コンテンポラリーな創作もたくさんあるということ。私自身は、東京もとても好きですが、もちろん京都も大好きです。京都に住んでいるフランス人は「ビジネスではなくて知識人」というふうに捉えられていますが、これは本当に表面的なイメージですね(笑)。

—— 京都において独自の色を出そうということは考えていますか。

ネットワークを使って巡回するイベントがたくさん出来ることがいちばん興味深い点です。さらなる可能性として、ネットワークを使って京都から福岡や東京に発信するイベントをしたいとも考えています。今年は1年目ということもあり、まずは京都という都市の特徴をよく知り、パートナーを探し、今後どのようなプロジェクトを一緒に行えるか勉強して、後につなげていきたいと思っているところです。

いま考えているのは『KYOTO EXPERIMENT』(京都国際舞台芸術祭)との協力関係を、もっと密接にしたいということですね。

—— 今年初めて開催された『KYOTOGRAPHIE』(京都グラフィー国際写真フェスティバル)についてはいかがでしょう。

『KYOTOGRAPHIE』はアンスティチュ・フランセ関西の企画ではないのですが、パートナーとして私たちができることを提示して、東京や世界に発信していけたらと思っています。サポーターとしてイベントを支えていくことも私たちのミッションのひとつですから。

 

●コラボレーションで広がる『ニュイ・ブランシュ KYOTO 2013』

—— イザベルさんが京都に来て2年目に入りますが、実質的な主催事業であり、イザベルさんの仕事の中で最も大きなものというと、やはり『ニュイ・ブランシュ KYOTO』でしょうか。

『ニュイ・ブランシュ KYOTO』は自分にとってチャレンジと言えるようなイベントですが、それ以外にも、年間を通して大きなイベントやプロジェクトがたくさんあります。京都フランス音楽アカデミー(日仏音楽交流事業)もかなりの比重を占めています。

—— 僕がすごくいいなと思ったのは、『ニュイ・ブランシュ KYOTO』にフランスや日本のアーティストが参加しているのはもちろんですが、 例えばゲーテ・インスティトゥートが関わって、ドイツのアーティストが参加したりすることです。今年はイギリス人アーティストも加わりますよね。

そうなんです。基本的には日仏のアーティストなんですが、それ以外にも京都や関西で活躍しているアーティストを取り上げたいと思います。今年はエリゼ条約(仏独協力条約)が50周年ということで、ドイツ人アーティストにスポットライトを当てました。ヴィラ九条山(フランス)、ヴィラ鴨川(ドイツ)という、アーティストインレジデンス施設が京都市にあることもあって、このコラボレーションには多くの意義を感じています。

—— 今年のヴェネツィア・ビエンナーレで、ドイツ・パビリオンとフランス・パビリオンが場所を取り替えっこしましたよね。ドイツとフランスは歴史的に因縁のある国同士なので、最初は「へー」と思ったんですけど。

おっしゃる通りなんですが(笑)、嫌い嫌いも好きの内、みたいな感じで、好きと嫌いが表裏一体となってあるんでしょう。戦争やいろんな問題がありましたが、哲学や文学などお互いに尊重する部分もあって、複雑ではありますが、悪い関係ではないと思います。

—— 京都には、いまはアメリカンセンターもブリティッシュ・カウンシルもないし、イタリア文化会館も少し縮小されました。今後、『ニュイ・ブランシュ KYOTO』や別の機会に、他の国の文化機関と協働する可能性はあるんでしょうか。

ぜひ積極的にコラボレーションしたいです。先ほどお話ししたように、今年はエリゼ条約50周年に光を当ててドイツを取り上げましたが、『ニュイ・ブランシュ KYOTO』は日仏だけのものとは考えていません。『ニュイ・ブランシュ』発祥の地パリでも、国際的なものだという考え方があります。京都ではすでに3回目ですが、言い換えればまだ3回目ですし、パリに比べたらまだまだ小さな規模なので、さらに良いものにしていけると考えています。

—— 3回目の今回の目玉は何ですか。

ひとつを選ぶのは難しいのですが、簡単にポイントをまとめてみます。

今回は、ヴィラ鴨川(ドイツ)のアーティストもヴィラ九条山(フランス)のアーティストも参加しています。ウルリケ・ハーゲ(作曲家・ジャズピアニスト)とエリック・シェーファー(作曲家・打楽器奏者)という2人のドイツ人は、ヴィラ鴨川の2012年のレジデントなのですが、ドイツ人アーティストをフランスのアンスティチュに迎えるという面白い試みです。

一方、フランス人ビジュアルアーティストで、ヴィラ九条山の2012年のレジデントのアレクサンドル・モーベールが、@KCUA(京都市立芸術ギャラリー/アクア)に出展します。これは昨年ヴィラ九条山で始めたプロジェクトを、いまはトーキョーワンダーサイトにレジデントとして滞在しながら続けている点に意味があると思います。

また、ヴィラ九条山の2011年のレジデントのダヴィデ・ヴォンパク(振付家・ダンサー)は、去年も『ニュイ・ブランシュ KYOTO』に参加しましたが、『KYOTO EXPERIMENT 2013』のレジデントとして戻ってきて、京都芸術センターでパフォーマンスを行います。ダヴィデは今回、まさに仏独の組み合せでドイツ人アーティストとコラボレーションしています。

—— ざっとプログラムを見た印象では、音楽、映像、パフォーマンスが多く、ペインティングなどのビジュアルアートが少ない感じですね。

『ニュイ・ブランシュ』は1日だけの、しかも夜のイベントという性質にも関係しています。だからパフォーマンスは多く、展示は少ないということになっていますが、それを補うためにアートギャラリーにお願いして、もともと開催されている展覧会を特別に夜遅くまで開けてもらい、ナイトビューイングができるようにしてもらいました。

また、MORI YU GALLERYでの展覧会のオープニングイベントとして、アンスティチュ・フランセ関西-京都で河合政之さんによるパフォーマンスがあり、後日、展覧会も観に行ってもらえるような流れを考えています。FOIL GALLERYは通常の展示の後に、朝の5時までアーティストサロンという形で出会いの場を作って下さいます。
京都市内のマップ付きプログラムも作るので、『ニュイ・ブランシュ』が終わった後でも展覧会を楽しんでいただきたいですね。

独自の展覧会を企画するのは予算的に厳しいので、今後もコラボレーションを展開していくことを考えています。例えば今年は『超京都』と協力していくつかのギャラリーに声をかけることができました。また『KYOTO EXPERIMENT 2013』とのコラボレーションで、高嶺格さんによる市役所前広場での上映も可能になりました。今後もますます協働の幅を広げて、造形作品も取り入れることができたら、と考えています。

 

●伝統をとても大切にするフランスと京都

—— 将来的に、テーマを設定するということはあるんですか。

アンスティチュ・フランセ東京との協力体制が始まり、巡回するプロジェクトが多くなってきていますが、来年はメチエダール、つまり職人の仕事がテーマになります。それをぜひ『ニュイ・ブランシュ KYOTO』にも取り入れていきたい。このテーマは、来年再オープン予定のヴィラ九条山でも挙げられています。

—— メチエダールというのは伝統工芸のことですね。

工業的な大量生産とは逆の、手仕事や伝統工芸のことです。日本やフランスどちらのものも考えています。

伝統工芸はフランスでも、もちろん京都でもとても大切にされているので、日仏双方のものを取り上げること考えています。

—— 将来的にヴィラ九条山はどうなるのでしょうか。

再オープンするのは確かです。2014年の夏、もしくは秋を予定しています。

—— 基本的な目的はアーティトインレジデンスだと思いますが、それ以上の何かを行うつもりはありますか。

もちろん交流の場には変わりありませんが、フランス人だけではなく、日本のアーティストにももう少しオープンにできたらと思っています。

—— 最後の質問です。休日は何をしていますか。

なかなかそういう機会はないのですが、少し時間が出来たら、山歩きをしたり、京都発見のためにいろいろな場所に出かけたりしたいですね。今度は鞍馬に行こうと思っています。

(2013年9月5日取材/9月29日公開)


 

Isabelle Olivier
1978年生まれ。フランス国籍。パリ第二大学(修士)、マルヌ・ァ・ヴァレ大学、パリ第一大学(修士)修了、国際関係の仕事に従事する。2007年より日本へ。『100 METER FILM』映像制作アシスタント(2007~2009)、赤坂国際法律会計事務所  コンサルタント(2007~2012)、『オール・ピスト東京』実行委員長(2010~2012)を経て、2012年9月よりアンスティチュ・フランセ関西  文化プログラム主任。



〈C O N T E N T S〉
インタビューシリーズ『京都の仕掛人』
#01 イザベル・オリヴィエ
(アンスティチュ・フランセ関西-京都 文化プログラム主任)
#02 マルクス・ヴェルンハルト
(ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川 館長)