インタビュー 蔭山陽太氏(THEATRE E9 KYOTO 支配人)
ロームシアターの新館長は大勢で議論して決めるべきだった


橋本裕介氏の特別寄稿に併せて、THEATRE E9 KYOTOの支配人、蔭山陽太氏のインタビューをお届けする。氏は、今年2月14日に京都市に対して公開質問状を提出した有志のメンバーであり、ロームシアター京都開館準備期間中の2013年8月から開館後の2018年3月まで同館の支配人/エグゼクティブディレクターを務めていた。

橋本氏の記事のリードに記したように、ロームシアター京都の新館長に就任するとされた三浦基氏は、ハラスメント・解雇問題について団体交渉の最中にある。そういった問題を抱える人物を、問題解決前に公共性の高い文化施設の館長に任命すること自体異例と言えるが、2月19日に行われた「ロームシアター京都 2020年度 自主事業ラインアップ」説明会では、館長の推薦・任命を行う京都市音楽芸術文化振興財団の担当者が、プレスからの質問に対して「任命権を持つ同財団理事長(長尾真氏)に、三浦氏の解雇問題に関する説明を(選考時に)行っていなかった」と回答した。つまり、財団理事長はハラスメント・解雇問題について一切知らされないまま館長就任を認めたということだ。

館長人事に関してはさまざまな問題点が存在するが、ここで重視したいのは選考のプロセスである。ロームシアター京都は、京都会館時代から数えると、実に60年にわたって京都市民から親しまれてきた市民のための劇場だ。その顔である館長の人事が密室で行われていたとすれば、これからの芸術文化行政に大きな禍根を残すこととなるだろう。京都市が進める文化政策の問題点や課題についての、蔭山氏の意見をお読みいただきたい。

 


聞き手:小崎哲哉・島貫泰介
構成:島貫泰介

ロームシアター京都/photo by Shigeo Ogawa


不透明な館長選考プロセス


――今回の新館長人事に関しては、関係者らの証言から不透明な部分が数多くあることを把握しています。例えば、ロームシアター京都の管理職にこの人事が伝えられたのは昨年の12月末であったといいます。私たち報道関係者には1月10日付で就任記者会見のプレスリリースが届いていますから、きわめて電撃的な決定がなされたわけです。本日(2月19日)行われた「自主事業ラインアップ」発表会でも、平竹耕三現館長以下、劇場スタッフは何も知らされていなかったとの公式声明がありました。この一連の流れについて、蔭山さんはどのような印象を持ちましたか。

蔭山陽太/photo by Tetsuya Ozaki


 

蔭山 強い不信感を持っています。というのも、今回のような現場を無視した抜き打ちの決定は、私がロームシアター京都に在籍しているあいだにも計2回起きたからです。

一度目は現館長である平竹さんの就任です。そもそも、ロームシアター京都は当初から館長職を必要としない組織づくりを行っていました。事実、開館準備期間中にも館長を誰にするかを検討するような会議もありませんでした。ところが2016年1月10日の開館記念式典で配布するプログラム制作の過程で、京都市から送られてきた原稿のなかに、「ロームシアター京都館長 平竹耕三」という記名での挨拶文が入っていたんです。それが2015年の年の暮れでした。記念式典の運営を仕切っていたのが京都市ということもあり、私たち現場スタッフはまったく全容を知らされておらず、突然の通知に非常に驚きました。

二度目は、副館長の人事です。京都市音楽芸術文化振興財団の定款では「副館長」という役職の規定は存在しなかったのですが、理事会に修正案が提出され、そのまま承認されてしまいました。

 

――それは現副館長のことでしょうか。

 

蔭山 そうです。就任直前まで京都市保健福祉局に在籍していた、文化行政とはまったく接点のない方です。しかし、常勤ではない館長に対して、副館長は常勤職ですから、現場のトップになるわけです。そういった重要なポストも、なんら検討もないまま決まってしまったんです。

それから、先日の就任会見時に発表された館長の職務内容(ロームシアター京都を総合的に運営する統括責任者/ロームシアター京都における事業企画立案・実施)も、これまで財団の定款になかった条項です。ですから、ここも非常に不透明。

そういう意味でも、ロームシアター京都の重要人事はつねに不透明なプロセスで行われてきたわけです。そして、これらを実際に主導してきたのが、開館準備段階から入っていた平竹さんです。館長には劇場運営の実質的な権限がありませんが、平竹さんは2018年度まで「文化芸術政策監」という京都市の文化政策のトップにある人物でしたから、財団やロームシアターに席を持つ市職員にとっては権力のある上司としての立ち位置になります。

そういう意味でも、役所的なヒエラルキーが平竹さんによって持ち込まれたのが現在のロームシアター京都であるということです。

 

――たしかに平竹氏の異動には不可解な点がいくつかあります。文化芸術政策監というポジションは2015年度に新設された、ある意味で平竹氏のための役職とも思えますが、2018年度で定年退職のはずでした。ところが退任を1年延長して、京都市文化市民局参事としてロームシアター京都の館長職に留まっています。

 

蔭山 今回の件に限らず、京都市のやり方には疑問を感じています。

ロームシアター京都は、自主事業を中心的に手がける公立文化施設として計画されていますから、現場にある専門スタッフの経験と意思が尊重されるべき場所です。そこに役所的な人事と政治を持ち込むこと自体が時代錯誤です。それは準備室に関わる以前から主張してきたことで、それが尊重されていたからこそオープンメンバーの実質的な人事権も、支配人/エグゼクティブディレクターである私に一任されていたんです。

そういった創造型の性質を持った劇場であるのに、芸術監督的な役割を担うことになる今回の館長人事は、現場を指揮する橋本裕介さん(ロームシアター京都プログラムディレクター。2019年度までは、KYOTO EXPERIMENTのプログラムディレクターを兼務)になんの相談もないまま決められてしまった。そんなことがあってはなりません。

 

――自主事業ラインアップ説明会では、平竹氏も三浦氏の館長選考には関わっていないとの発表がありましたが。

 

蔭山 関わっていないわけがありません。もちろん任命までのプロセスに関わっていると明示されているのは、三浦さんを推薦した門川大作京都市長と、その推薦を受けて任命した長尾真財団理事長ですが、通例的に考えられるのは現在の文化芸術政策監である北村信幸さんと、前任者である平竹さんからの推挙なしには三浦さんが選ばれる理由もない。平竹さんと三浦さんはロームシアター京都開館前から親しい間柄でもありましたから。

 

現場のモチベーションは相当に落ちている

――任命責任の問題もありますが、この状況に翻弄されているロームシアター京都の現場への影響も気になっています。

 

蔭山 すでにモチベーションは相当に落ちていると聞いています。それは開館以前から関わってきた自分としてもちょっと耐えられない心境です。来年度のプログラムが発表されましたが、すでに直接的な影響が出ていますし……。

 

――2020年度の事業にラインアップされた松田正隆氏、岡田利規氏が「人事の件で懸念があり、その解決が見られない場合に辞退の可能性がある」と発表し、またダンスカンパニーNoismの金森穣氏が舞踊部門の芸術監督を務める「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」は「人事体制の変化によって、企画の趣旨や内容に変更は生じないことを前提とする」という異例の声明を出しています(その後、2月20日に木ノ下歌舞伎も「新館長就任の人事とそこからみえるハラスメントに対する考えが現時点で不透明であることから、今の状況では上演決定の発表を行うことはできない」と声明を出した)。

 

蔭山 今回の館長人事を無理に押し通せば、さらに大きな影響も出てくるでしょう。では、そういった反応や変化に対して三浦さんは館長として対応することができるのか、というのも大いに疑問です。彼は拠点である「アンダースロー」(京都市左京区にある地点専用の小劇場)の運営を行なっていますが、ロームシアター京都のような巨大な公共劇場はスケールも内容もまったく違います。その中でこのような状況のままでは、誰もついていけないし、外部からスタッフを招くことも厳しいでしょう。つまり、劇場機能自体が成り立たなくなる可能性があります。

そう考えると、三浦さんは館長就任を辞退するか、団体交渉の結果が出るまで保留・延期するなりして状況を見守るべきでしょう。そして、そういった応急的な対応は、現状のロームシアター京都ならば可能です。これまで館長や芸術監督がいなくても成り立つ組織として、この5年間動いてきたからです。

 

――しかし、公共劇場に館長が不在というのも不自然に感じます。さきほど、開館準備中に館長人事に関する会議も行われなかったと話していましたが。

 

蔭山 財団が有している5つの市民会館にはそれぞれ館長職がありますから、ポストとして想定されてはいました。しかし、誰を選ぶかという議論はありませんでした。その場合でも、通例的に館長というのはご意見番というか名誉職に相当するので、例えば芸術大学の学長を長く務めた方や文化や芸術に理解のある批評家などが就任することになるだろう、と考えていました。

ですから、専門職を統括するトップが私、プログラムなどの自主事業のトップが橋本さん、そして管理運営のトップが宮崎刀史紀さんという体制での組織化を進めてきたわけです。そういったプロセスや、館長不在でも成立させようとする意図は、京都市側のトップである平竹さんももちろん共有していました。

 

――定款を修正して設けられた副館長という役職も異例だと思うのですが、平竹氏が館長になった人事のプロセスは開示されていますか。

 

蔭山 開示されていないです。ですから、市の現職、それも文化政策の担当者が指定管理の劇場の館長職に就くというのは、私たちにとっては信じられない人事でした。

 

――学長や批評家という話が出ましたが、例えば京都芸術センターの館長を務めているのは建畠晢氏(美術評論家。国立国際美術館館長、京都市立芸術大学学長、埼玉県立近代美術館館長、多摩美術大学学長などを歴任)ですね。このほかにも京都に関わるキーパーソンは何人もいます。

 

蔭山 つまり、ふさわしい人材を探して依頼すれば必ず見つかるんです。

 

――しかしそう考えると、三浦氏の起用も妥当性がないわけではありません。長く京都の文化芸術に関わってきた人物ですし、最近は海外での評価も高まりつつあります。とはいえ、なぜハラスメント・解雇問題を抱えたこのタイミングで館長就任を強行しなければならなかったのか、理解に苦しみます。

 

蔭山 そう思います。おそらく舞台芸術の世界で私は特に三浦さんと地点に関わりの多いプロデューサーです。支配人を務めていた「KAAT 神奈川芸術劇場」では開館オープニングプログラムのひとつを上演してもらいましたし、ロームシアター京都でも同様にオープニングのオペラの演出をお願いしました。その後、KAATでもロームシアターでもほぼ毎年自主事業として上演を依頼していますし、現在のTHEATRE E9 KYOTOでもオープニングプログラムでの上演をお願いしている。こう言うのも変ですが、三浦さんの芸術的才能を理解し、評価し、発表の場を劇場側として積極的に提供してきたのは私だという思いがあります。だからこそ、いまの状況を、私自身は非常につらく受け止めています。

 

――ロームシアター京都の立ち上げ時には、橋本氏、三浦氏を交えた三者で、かなり結束しながら協働していましたね。

 

蔭山 劇場の新しい名前も決まっていないころから、何度も話してきました。三浦さんは「このままだと京都会館の焼き直しみたいな劇場になってしまう」、つまり単なる貸し館になってしまうことを危惧していました。その話を聞いて、私も橋本さんも自主事業を中心にした創造型の劇場にするビジョンを一緒に描いてきたわけです。実を言えば、その過程で三浦さんに芸術監督に相当するようなポジションをつくるという案もあったんですよ。ただ、当初想定していた予算規模が縮小されて、自主事業を主体とする運営は難しくなった。そこで自主事業に関しては、KYOTO EXPERIMENTでのプロデューサー経験の実績もある橋本さんに、プログラムディレクターとして任せることにしたんです。芸術監督的なポジションがふたりになっても意味がありませんから。

 

――今回新たに加わった館長の職務内容は、実質的に芸術監督やプログラムディレクターと職務が重なるものです。そういう意味でも、三浦氏が館長になった場合の現場の混乱は予想できます。いわゆる「船頭多くして船山に上る」。

 

蔭山 プログラムディレクターと管理運営部門、それにかつて私が担っていた支配人/エグゼクティブディレクターの全部を包括するような役割に読めます。明らかに権力が集中しすぎですし、機能不全を起こすのは必至でしょう。

やはり、この館長人事は現場の専門職員や事業担当者を含めた大勢で議論して決めるべきだったと思います。これまでプログラムをつくってきた人間の意向を聞きながら、これからどのような劇場のかたちがありえるかを前向きに検討しなければなりません。それは、今回問題になっているハラスメントの対応にもつながる話で、公共の文化施設としてどのようなコンプライアンスを築いて、外に発信することができるかも問われるでしょう。

(2020年3月3日公開)