プロフィール

小崎 哲哉(おざき・てつや)
1955年、東京生まれ。
ウェブマガジン『REALTOKYO』及び『REALKYOTO』発行人兼編集長。
写真集『百年の愚行』などを企画編集し、アジア太平洋地域をカバーする現代アート雑誌『ART iT』を創刊した。
京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員、同大大学院講師。同志社大学講師。
あいちトリエンナーレ2013の舞台芸術統括プロデューサーも務める。

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日本と中国、日本と韓国

2013年05月13日

某月某日

京都シネマで、染色家の吉岡幸雄氏の仕事を記録したドキュメンタリー『紫』を観る(5/17まで)。氏は文化年間に始まる染司の5代目当主で、化学染料に頼らず、古来の植物染料で伝統色を再現すべく努めている。引きの画面が少なくクローズアップが多い。つまり、テレビ的とも呼びうる映画だったが、そのために染料の原材料である植物や、それらを使って染料を作る過程や、工房で実際に布を染めてゆく工程が細かく観られて面白かった。

惜しむらくは全体の尺がやや短い。吉岡氏とその片腕的存在と呼ぶべき職人・福田伝士氏の仕事ぶりを、もう少し観たいと思った。とりわけ、彼らの仕事に欠かせない文献の調査・分析についての描写が少ないのが物足りなかったが、これは無い物ねだりかもしれない。映像が得手としない対象であるのだから、やはり吉岡氏の著書を読むべきだろう。興味のある読者には、とりあえず『日本の色を染める』『日本の色を歩く』『日本人の愛した色』の3冊を薦めておく。

映画を観る数日前に、ある集まりで氏のお話を聴く機会があった。会を主催したのは京都の老舗のご当主や御曹司たち。40代に入ったばかりの方が多く、同じ年頃に別の仕事を辞めて実家に戻り、伝統的な仕事を受け継ぐことになった氏の、特に人生観についての話に真剣に聴き入っていた。よいお話だったので氏と主催者のご了解を得て、近々REALKYOTOに掲載する予定である。

詳しくはその記事を読んでいただくとして、ひとつだけ先に書いておきたいことがある。このところの日中・日韓関係の緊張について、吉岡氏は以下のように話された。「中国や韓国と仲ようないのはよろしゅうありませんな。日本にある(伝統工芸の)技術は、ほとんど起源が中国か韓国にあります。もとを探っていけば、全部中国にあると言ってもいい」。

僕が以前にお世話になった故・内田勝氏も同様のことを話していた。内田氏は、『少年マガジン』の黄金時代を築き上げ、『ホットドッグ・プレス』や『デイズジャパン』を立ち上げた名編集者である。氏曰く「中国は日本のお父さん、韓国は日本のお兄さんと思っていれば間違いない」。文化的に、歴史的に、まったくその通りだが、そんな当たり前のことを知らずに、あるいは知らないふりをして、理不尽なことを言う輩が最近は多すぎる。

実は数ヶ月前に、オーストラリアのアート雑誌『Artlink』に「Esse est percipi:東アジアにおけるデジタル批評アーカイブの必要性」(The need for a digital criticism archive in East Asia)という文章を寄稿した。表題の通りの内容で、「東アジア」とは中国・台湾・韓国・日本を指す。

この文章の最後にも記したが、REALKYOTOは「東アジアにおけるデジタル批評アーカイブ」を構築するための、ささやかにして最初の一歩のつもりで作っている。近隣の人々と仲ようないのはよろしゅうありませんな、と僕も思う。