プロフィール

小崎 哲哉(おざき・てつや)
1955年、東京生まれ。
ウェブマガジン『REALTOKYO』及び『REALKYOTO』発行人兼編集長。
写真集『百年の愚行』などを企画編集し、アジア太平洋地域をカバーする現代アート雑誌『ART iT』を創刊した。
京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員、同大大学院講師。同志社大学講師。
あいちトリエンナーレ2013の舞台芸術統括プロデューサーも務める。

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PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015

2013年05月28日

某月某日(実は5月27日)

『PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015』の記者発表と懇親会に行く。平日のやや遅い時刻のせいか、案外プレスの数が少ない。懇親会は盛況だったが、記者発表の出席者は約20名しかいなかった。

左より門川市長、長谷会長、山田知事



以下、要点。

名称:PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015
会期:2015年3月上旬から5月上旬
会場:京都市美術館、京都府京都文化博物館ほか府・市関連施設など
アーティスティックディレクター:河本信治(元・京都国立近代美術館学芸課長)
概算事業費:4億5千万円(2013〜2015年度の総額)
目標入場者数:25万人
主催:京都国際現代芸術祭組織委員会、一般社団法人京都経済同友会、京都府、京都市
後援:国際交流基金
参加作家:国内外約40名

河本信治アーティスティックディレクター



アーティスティックディレクターの河本氏は「経済界や市民から立ち上がった企画なので引き受けた。京都には1970年以降、中原祐介氏による『東京ビエンナーレ』京都巡回展、市美術館での『京都アンデパンダン展』、文化博物館における日本映画史研究、京都芸術センターでの『京都ビエンナーレ2003』など先達の業績があり、それが『国際展をやろう』という現在の気運の礎になったと思う。内容はまだ言えないが、イメージとしては町屋を2つくっつけた感じ。間口を広げ、敷居を下げ、しかし構造はそのままで奥行きは深く、2階に上がるとほぼ同じ広さだが、低い天井に頭がぶつかるかもしれない危険性もある。そんな、深い意味での読み込みができる国際展にしていきたい」と抱負を述べた。

参加作家はひとりも発表されなかったが、ビジュアルアートに限定はしないとのこと。再び河本氏曰く「パフォーミングアーツ、音楽、シネマ等々、メディアを限定せず、可能な限り幅広く、できるだけ柔軟に考えていきたい」。また、「ゼロからのスタートなので、準備期間の2年が大切」ということで、この6/21に「オープンリサーチプログラム」としてリピット水田堯氏のレクチャーが行われる。2014年の2月から3月にかけては、近美時代に『ウィリアム・ケントリッジ——歩きながら歴史を考える:そしてドローイングは動き始めた……』展を成功させた河本氏らしく、昨年のドクメンタで初公開されたインスタレーション「時間への抵抗」がプレイベントとして展示される予定。ケントリッジはその後も同作の改良を重ねていて、僕もこの年明けにローマで新バージョンを観たけれど(素晴らしかった!)、それがアジアで初めて公開されることになるという。

僕はアジア=パシフィック・トリエンナーレ(APT)について書いた記事の中に(APTとは対照的に)「ほとんどの国際展が毎回芸術監督とテーマを変え、しかも芸術監督は国際的に著名なキュレーターばかりでテーマも似たり寄ったり、結果的に同じような色合いになっている」と書いたことがある。世界にはビエンナーレ、トリエンナーレなどの国際展が数百あると言われ、日本にも横浜、越後妻有、瀬戸内、あいちとすでに大どころが4つあり、来年は第1回札幌ビエンナーレも開催される。新たな色を出すのは容易ではないが、そこは『アゲインスト・ネーチャー:80年代の日本美術』展や上述のケントリッジ展などを企画した河本氏の手腕に期待したい。失礼な言い方かもしれないが、氏の企画展には他のキュレーターには見られない「狂気」を感じることがある。近美の学芸課長時代には、出演メンバーの大半が素裸となり、頭から絵具をかぶり、聴衆も一緒に踊り狂うというダグラス・ゴードンの(作品展じゃなくて)ライブパフォーマンスを企画したりもしている。とんでもない国際展が実現するかもしれない。

しかし心配なのは予算である。札幌の予算は知らないが、横浜、越後妻有、瀬戸内、あいちの事業規模はそれぞれ9億円、8億6千万円、6億9千万円、13億円(いずれも前回)。京都は上述したように「4億5千万円」が見込まれているが、経済同友会、京都府、京都市がどんな割合で負担するかという記者の質問に、事務局は「比率は未定です」と回答。予算が確定していないので、会場も市美と文博以外はまだ押さえていないという。寺社などの歴史的建造物や町屋、あるいは市外の山中などは「参加アーティストが希望したら検討する」(河本ディレクター)とのこと。経済同友会は、昨年4月には「2年に一度の『京都ビエンナーレ』」と発表していたが、組織委員会の長谷幹雄会長(京都経済同友会代表幹事)は「スターティングスモール(小さく始める)ということで、あまり無理をしない」と、2回目以降どうなるかについての明言を避けた。

京都は市立芸大を中心に、現代アーティストの質と量は東京を凌ぐと僕は(いや、多くの業界関係者が)見ている。しかしマーケットの基盤が脆弱で(有り体に言うと作品があまり売れず)、現代アートをめぐる環境はいまひとつよろしくない。年間5千万人が訪れ、世界的な知名度を誇る観光都市なのだから、まっとうな国際展を開ければ25万という目標入場者数は軽くクリアできるだろう。市立芸大が都心回帰を望んでいるという流れもあり、「現代アートの街」という新しい顔を持つことは十分に可能である。

長谷会長は、開催のスパンについて明言を避けつつ「継続的にやりたい」と述べた。ともに記者会見に臨んだ山田啓二京都府知事は「京都の目指すのは日本の文化首都である」と高らかに宣言した。門川大作京都市長も「京都が最も大事にしていきたいのは文化芸術」と声を合わせた。京都政財界のトップスリーが顔を揃え、大見得を切ったわけである。後は、古都の旦那衆、住人、それに京都以外に住む京都ファンがどれだけ心意気を示せるかだ。京都の皆さん、そして京都と日本と現代アートを愛する「よそさん」の皆さん、乱高下する株式市場にお金を突っ込むんじゃなくて、『PARASOPHIA』にお金を出しませんか。いや、株で儲けたお金でももちろんかまいませんが。