プロフィール

福永 信(ふくなが・しん)
1972年生まれ。
著書に、『アクロバット前夜』(2001/新装版『アクロバット前夜90°』2009)、『あっぷあっぷ』(2004/共著)『コップとコッペパンとペン』(2007)、『星座から見た地球』(2010)、『一一一一一』(2011)、『こんにちは美術』(2012/編著)、『三姉妹とその友達』(2013)、『星座と文学』(2014)。

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KYOTOEXPERIMENTの金氏徹平

2017年10月09日

 

金氏徹平が舞台を作るということになり、僕も少し関わることになった。今日はそのことを少々。

彼にはtowerと名付けられたドローイングの連作群があるが、それは高層ビルからいろんなものが出ているような絵である。村田沙耶香の芥川賞受賞作『コンビニ人間』の表紙でおなじみと言った方が思い浮かべやすいかもしれない。そのドローイングは、すでに彼自身によってアニメ化もされており、横浜美術館の個展でも公開された。タワーの複数の穴からいろんなものが、出たり入ったり、しきりに動く傑作映像作品である。ドローイングの画像やアニメーションは、京都国際舞台芸術祭KYOTOEXPERIMENTの金氏ページで見られる。

『tower(THEATER)』の概要はこの金氏ページにすでに書かれている通りなのであるが、70分ほどの時間に複数のいろんなパートが「出たり入ったり」する。これが面白い。今日(10月8日)は崇仁小学校の体育館での最後の通し稽古だったのだが、僕はこの日初めてcontactGonzoのパートを見た。これがすごい。ドラマーの和田晋侍とのコラボレーションなのであるが、強烈なドラムから叩き出され、量産される超高密度の音の連なりを、3人の男が体当たりでこじあける。そのこじあけられた不可視の空間から、単なる汗ではない何かがじっとり滲み出てくる。そんな感じがする。わずか10分間の爽快な悪夢のような出来事である。

金氏徹平は『家電のように解り合えない』や『わかったさんのクッキー』などで岡田利規とすでに絶妙なタッグを組んでいる。今回は岡田利規が金氏徹平の作る舞台へ参加するのであり、金氏の作品世界に入り込んだわけである。岡田が10分間の台本を書き下ろし、演出もしている。不在の時は金氏が演出を担当しており、出演者のセリフとタワーからのリアクションの「出たり入ったり」が複雑に絡み合っているような、共鳴しているような、謎の演劇がすでに今日の稽古場で実現していた。本番が、おそろしい。

その他にも、荒木優光と小松千倫による「音」の発生現場を観察する驚異の10分間や、「青柳先生のミステリアス建築講義」や、僕の担当した「福永信初演出作品」の10分間などがあるのだが、それについて書くのは控えよう。dot architectsによる「アンビルドのビルド」とも言うべきタワー自体の「正体」についても明かさずにおこう。何しろまだ本番前なのだし、劇場で初めて見る楽しみを奪うわけにはいかない。

ひとつ言えるのはこの『tower(THEATER)』は、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、全世代に対応しているということである。これが金氏徹平らしさだが、誰にでもできるようなことではない。パーフェクトな作品を好む者の目には、金氏徹平の作品は映らない。海外の動向、流行に右往左往する者の目にも、金氏徹平の作品はまったく見えない。怠惰な目には金氏徹平の作品は重荷となるだろう。しかし、にもかかわらず、彼の作品には人懐っこさがあり、すべての人間のすぐ近くにいる。歩き出す日も近い。