プロフィール

小崎 哲哉(おざき・てつや)
1955年、東京生まれ。
ウェブマガジン『REALTOKYO』及び『REALKYOTO』発行人兼編集長。
写真集『百年の愚行』などを企画編集し、アジア太平洋地域をカバーする現代アート雑誌『ART iT』を創刊した。
京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員、同大大学院講師。同志社大学講師。
あいちトリエンナーレ2013の舞台芸術統括プロデューサーも務める。

最新のエントリー

アーカイブ

京都国際写真祭 2015

2015年05月05日

3度目になるKYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭。以下KG)は、これまでで最高に充実した内容である。行政主導ではなく、代理店仕事でもなく、写真家とデザイナーが創設し、企画運営する国際展。規模は大きくないとはいえ、いわば素人同然の2人が始めた写真フェスティバルが、たった3年の間にここまで成長したことを言祝ぎたい。

from Martin Gusinde: The Spirit of the Tierra del Fuego people, Sel’knam,Yamana, Kawésqar
(ウルトラマンのダダ星人のネタ元?)



from Marc Riboud: Alaska



共同創設者/代表の1人、ルシール・レイボーズはフランス人で、アルル国際写真フェスティバルやファッションブランドに協力や支援を仰いだこともあり、これまでは「フランス寄り」「ファッションっぽい」と批判・揶揄されることもあった。個人的にはそれのどこが悪いのかと思うけれど、主題に一貫性や整合性が欠けていたという印象は確かに拭い切れない。だが今回は「TRIBE—あなたはどこにいるのか?」というテーマのもと、少数ながら個性的で強力な企画展が出揃った。スポンサーとの政治的な折衝はいまだに必要だろうが、キュレーションのイニシアティブは取り戻したと言えるのではないか。

from Fosco Maraini: The Enchantment of the Women of the Sea — by “Museo delle Culture” of Lugano



写真術が、視覚情報の記録と伝達という役割を担って誕生したのは19世紀。同じ時期に、人類学は学問としての体系を整え始める。20世紀に入るとブローニーやライカなど携行性に優れたカメラが登場し、文化人類学や民族学のフィールドワークに欠かせないツールとなった。今回のKGの「TRIBE」というテーマは、その歴史的事実の上に展開されている。前回話題になった高谷史郎の「火星—未知なる地表」(キュレーションはグザヴィエ・バラル)のような、現時点における最先端技術を用いて光学的視覚装置たる写真のメディウムスペシフィシティに迫った作品がないのは残念だが、写真に求められた本来的な機能に立ち戻り、広義の民族学的写真に絞った戦略は評価されるべきだろう。

from Baudouin Mouanda: The Sapeurs of Bacongo



from Roger Ballen: Roger Ballen’s Shadowland 1969-2014 (detail)



宣教師マルティン・グシンデが100年近く前に記録した、ボディペインティングを施した南米南端フエゴ諸島の先住民。マルク・リブーが冷戦期の1958年に捉えた、軍事拠点になったがゆえに自然ばかりでなくアメリカ現代文明にも曝されることになったアラスカ先住民。フォスコ・マライーニが1959年に撮影した、大都市圏の高度経済成長とは一線を画した能登半島で健康的な肉体美を誇る海女たち。ボードワン・ムアンダがコンゴで撮った、植民地支配に由来する原色のファッションに身を包んだ小粋なサプールたち。ロジャー・バレンが幾分かの演出=虚構を交えて作品化した、ウィージーや鬼海弘雄の写真を連想させる南アフリカの白人貧困層。オリヴァー・ジーバーが世界の大都市でいわば採集した、パンク、モッズ、ゴス、ロリータ、ロカビリーなどにはまった若者たち……。ノ・スンテクの「reallyGood, murder」は別稿で論じるつもりだが、これらの写真群に我々は強く惹きつけられる。個々の被写体が放つエネルギーとともに、総体としての「TRIBE」が、良きにつけ悪しきにつけ世界の多様性を確認させてくれるからだろう。彼らの営みが、例外なく何かと何かの「狭間」で行われていることにも注目したい。

from Oliver Sieber: Imaginary Club



もうひとつ特筆すべきKGの長所は、会場の選択と展示デザインである。寺社や町屋など日本の伝統建築で写真を見せるのはなかなか難しい。デザインチームはその2者を、今回も見事に橋渡しした。とりわけフォスコ・マライーニ「海女の島」展の会場「祇園新橋伝統的建造物」は、改装のさなかとあって内壁の一部が壊され、天井裏もほとんど露出していたそうだが、1階を海中に見立てて青く塗った衝立で覆い、2階には波に見立てた竹を単独のインスタレーションと見紛うほどに大胆にあしらった。細く裂いた竹は酒樽の枠に用いられるもので、(株)竹定商店に提供してもらったとのこと。KGのもうひとりの共同創設者/代表である仲西祐介と、関西の伝統工芸職人と長年にわたる協働経験を持つオフィシャル展示デザイナー、オリヴァー・フランツの手柄である。札幌国際芸術祭2014でも展示の一部を担当したフランツは、KGには欠かせない存在となっている。

「海女の島」展会場2階の展示デザイン



オリヴァー・フランツ(左)と竹定商店の井上定治営業部長



個人的には、ブルーノート・レーベルの名盤のジャケットを飾った、フランシス・ウルフによるジャズミュージシャンのポートレートも感慨深かった。僕は28年前に『ブルーノートJAZZストーリー』という書籍の編集に携わったことがあるのだが、いまは亡き油井正一氏とともにこの本を共同執筆してくれたのが、ウルフ展のキュレーターであるマイケル・カスクーナ氏。書籍刊行時には会わずじまいだったので、今回初めて会えてとてもうれしかった。予期せぬ小さな偶然をもたらしてくれたKGに感謝したい。

マイケル・カスクーナ氏(左)、プロデューサーでジャズ評論家の行方均氏(右)と