ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン『Black on White』
© Christian Schafferer
ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン『Black on White』
© Christian Schafferer
直接的な影響を受けたのはぼくより一世代前のプレイヤーたちだと思うけれど、同じく90年代初頭にリリースされたフレッド・フリスのドキュメント『STEP ACROSS THE BORDER』とともに、CASSIBERは、音楽をはじめたばかりだったぼくに、「即興演奏によって出来ること」の広がりをガツンと示唆してくれた。フリスは越境してゆく個人が音楽を生み出してゆく方法を、CASSIBERは緊密な組織によってその内部に全世界を取り込む可能性を、という違いはあるけれど、そして、来日公演には急逝したcompostelaの篠田昌巳が参加していて、さらに異なった音楽がそこには内包されていたはずで、歌があり、抽象があり、リズム・シーケンスがあり、フリー・ジャズがあり、ノイズがあり、ポップスがあり、ハードコアがあり……といったポスト・フリーの沃野がぼくの90年代の原風景である。
そこから20年あまり。もしかすると、この時代の音楽はいま一番アクセスしにくくなっているかもしれない、と思う。「ポスト・モダン」という言葉がマジック・ワードだった時代を十二分に反映した80~90年代の音楽たち。国家・民族・人種による区分が音楽文化の中にもまだ厳然と存在し、大衆音楽のすべてがデジタルな消費物として液状化している現在から見れば、もしかして「過渡期」としてしか見なされないかもしれないこの時代に試みられた実験の数々は、いま、どのように聴こえるだろうか。しかし、まだ至るところに現実の壁がそびえていたこの時代の、物事を組みなおすための組織論としてこれらの音楽を聴きなおしてみることは、次の過渡期に向かっているだろう現在、思考の大きな手がかりとなると思う。感じるな、考えろ!(綾小路翔)。ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン『Black on White』
© Christian Schafferer
(2017年10月17日公開)
おおたに・よしお