プロフィール

福永 信(ふくなが・しん)
1972年生まれ。
著書に、『アクロバット前夜』(2001/新装版『アクロバット前夜90°』2009)、『あっぷあっぷ』(2004/共著)『コップとコッペパンとペン』(2007)、『星座から見た地球』(2010)、『一一一一一』(2011)、『こんにちは美術』(2012/編著)、『三姉妹とその友達』(2013)、『星座と文学』(2014)、『小説の家』(2016/編著)。

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京都芸術センターの伊藤隆介と中田有美

2016年07月14日
今日のおれの役割は「あと3日ほどだ」と告げることに尽きる。京都芸術センターで開催中の伊藤隆介&中田有美の二人展「ジオラマとパノラマ」(企画・古川真宏[京都芸術センター])のことだ。18日(月・祝)までなので、見逃すとたいへんもったいないことになるから今すぐ急ぐ!(14、15、16日は、祇園祭でふだんより早い17時で閉館だから、注意)

伊藤隆介氏の会場風景はこんな感じだ。

 
ボケているが、それは感動でおれの手が震えているからだぜ……それくらい伊藤氏の会場構成は美しい。映像が、緊密に会場と連携している。バカバカしさをずっと伴いながら、一瞬だけ凍りつく、息をのむ完璧さ、というか……(左にある開いた扉の向こうも、気になるだろ?)。

メインの「Field Watcher」は指先くらいの小型カメラが、穴をほじくるように、お手製のミニチュア撮影スタジオの中を、ぐいぐい突き進む。奥に突きあたると、引き返す。緩慢なピストン運動、そのくりかえし。一部始終が、壁にライブ上映される。これもくりかえし、だが、すべて一回きりのライブ上映だ。

 
観客は「外から」見ているだけだ。観客が映像に映り込むことはまったくない。映像だけを見ると、観客は存在しないも同然である。しかし、映像に映り込まない部分を観客は見ることができる。この「ミニチュア撮影スタジオ」には豊富な細部が用意してあるからだ。映像と、それ以外への細部への視線のピストン運動を、観客は課せられている。何のために? おそらくは「映像を見るだけ」に慣れた(成り果てた)美術観客への風刺と訓練のために。

 
おれは中田有美氏のインスタレーション「背景の背景:遠くと近く」にびっくりして目がいまだに痛いくらいだ。あれはなんだったんだろ。中田&伊藤のこの二人展は写真撮影、動画撮影、いずれも自由だけれども(すばらしい!)、伊藤氏の展示ではかろうじて写真を撮ったが、中田氏の展示では手が震えてカメラを取り出すことすらできなかったぜ……

びっくりした状態というのは、ふつうなら、すぐに過ぎ去る。でも、ここで、トロピカルな中田氏の絵に囲まれていると、それが持続しちまう。絵の中に入り込むように一歩、また一歩、おそるおそる、近づくことができるだけ。入り込もうとして、はじきとばされるだけ。そのくりかえし。くりかえしが会場内の壁という壁に乱反射(照り返し?)して、一回きりのライブのような体験を観客はすることになるだろう。まるで体全部を使っての目のダンスのような、というか、自分の目玉が、ミラーボールになるよう、ここでは課せられている。何のために? おそらくは「画集で見るだけ」に慣れた(成り果てた)美術読者から離脱する訓練のために。

 
付)伊藤氏の記事は澤隆志氏によるREALKYOTO内のこの記事も参考になる。
先日まで開催していた福岡・三菱地所アルティアムでの個展の予告編もおもしろい。
また児玉画廊では過去の展示のインスタレーション映像を公開している。