プロフィール

福永 信(ふくなが・しん)
1972年生まれ。
著書に、『アクロバット前夜』(2001/新装版『アクロバット前夜90°』2009)、『あっぷあっぷ』(2004/共著)『コップとコッペパンとペン』(2007)、『星座から見た地球』(2010)、『一一一一一』(2011)、『こんにちは美術』(2012/編著)、『三姉妹とその友達』(2013)、『星座と文学』(2014)、『小説の家』(2016/編著)。

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法貴信也の新作展示

2014年08月27日
会場に入る前の芳名帳などがあるところに会場MAP的な一色刷りの地味なプリントが「自由に持っていってよい」というように置かれているが、どうか、あれをとりそこねないように。このプリントに書かれている法貴信也のステートメントがとてもいいのだ。さっそく引用したいところだけれども、わがブログの文章のへたくそさが際立つのでやめておくことにする。どういう文章かというと、まず、これは絵描きにしか書けない文章だということだ。だからきっと読者が絵描きであれば、これを読んで、ふかくうなずくところがあるにちがいない。わずか数行の文章だが、展覧会のために文章を書くとすれば、こういうのが理想だ、というような文章なのだ。アーティストは、展覧会のパンフレットや図録などで、作者による言葉というのを、求められることが多いと思う。それが、見ることへの手引きになるというわけだ。しかし、その書かれる言葉が優しく観客を導くのであればいいが、強引にひっぱるような、「私はこう考えているのだからこう見ろ」的な、そんな文章もしばしば見受けられる。ほんとなら、そんな文章は書きたくなかっただろうに、と観客であるぼくらが、アーティストに同情してしまうほどである。でも、主催者からもとめられたものを「書かない」のもまた、陳腐な表現として「読まれてしまう」とだれもがすでにわかっている。では、どうしたら、いいのか。法貴信也のこのプリントの文章は、まさに、そんなあなたに朗報というべきものだ。ぜひ参考になさい、と思うような、文章なのである。この展覧会にだけ、あてはまる、具体的な取り組みについてふれた文章でありながら、読者を、強引に誘導するということがない。壮大なことを盛ることもなく、てきとうにお茶をにごすのでもない。もっとも、実際に読んでみれば、なんだ、こんな文章、誰にでも、書ける、と思わせるような、わかりやすい、シンプルな言葉で書かれているのだが、熟考の果てにつむぎだされた言葉であることも、読後15秒後くらいにガツンと伝わってくる、じつにかっこいい文章なのだ。今書きつつあるこのブログの文章は、同じ言葉を平気でくりかえしておりかなりださいという自覚があるが、法貴信也のステートメントは非常にかっこいいのだ。洒落た表現を使っているわけではないけれど、かっこいい。この地味なプリントの文章では、書いてあることを読むだけでなく、彼が何を書かないように注意しているのか、それをわれわれは読むことができるのである。
法貴信也が、このちっぽけなプリントのなかで書いている文章は、全部で4段落のみじかい文章であるが、まんなかに、一行アキがある。つまり、一行あいているのであるが、これを境界にして、「2段落プラス2段落」という構成になっている。両者は、たがいに矛盾した内容をもっている。実際には矛盾してないが、そう読み取られかねない微妙な表現を使い分けているのである。これは、たがいが、別の次元のことを語っているからである。非常に似てはいるが、別の次元に属することが、一枚の平面の上に共存する可能性をさぐった状態は、これまでも、法貴信也の絵のなかで、ぼくらが見てきたことだった。法貴信也の絵には、そっちの世界(絵)が、こっちの世界(現実)よりも複雑怪奇であるように思えるシカケが、ほどこしてあるのが、常だった。そして、ずいぶん変化したように見える今回の新しい彼の絵でも同じである。むしろ、かつてよりも積極的に、こちらの3次元の世界に、介入、ちょっかいを出してこようとしているように見える。それは、このプリントの文章が、「自由に受け取ってくれてかまわない」的に読者に丸投げせず、言葉の力、その構成の力によって、読者へ働きかけようとしていることにも、似ているかもしれない。目の前にはいない読者という存在を相手にしている物書きにとって、彼のステートメントは、ふかくうなずくことがあると思われる。法貴さんの絵が、もしも、文章になってうまれかわったら、このステートメントのような言葉の並びを含むにちがいない。自分のことは語らず、情念や情緒を盛ることもなく、絵のことばかり考えて、整理することで逆に複雑になり、でも全体としてはあっけなく、ユーモアもかくしきれない、そんなステートメントが手に入るのも、あとわずか数日のこと、31日の会期終了までである。だから、見逃してはならないのであり、22日が初日だったことを思い起こしてみれば、やけにみじかいのであるが、誤植ではないとのことである。それならば、やはり明日にでも行かねばならぬのであり、遅くとも31日には足を運ばねばならず、というのは会場の構成全体を見ることができるのは、31日が最後なのであり、この会場構成がまた、「2段落プラス2段落」のように、よく練られているのであり、できれば30日(土)のトークにも駆けつけて、彼の言葉そのものを聞き取るとともに、ぜひ、この地味なプリントを手にとってほしい。



▶ 『Cracking the Code』展/2014年8月22日 (金)〜8月31日 (日)  京都芸術センター